80代の老人が1人で作った「民主主義を本当に守る新聞」の軌跡、ローカル局制作映画が映す日本のメディアと民主主義のヤバすぎる本質的問題

民主主義を守るのがメディアの役割――。テレビ局や新聞社の人間は公の場でよくそんなことを言う。
聞くたびに私は「建前論だな」とシラけてしまう。民主主義を守っているメディアなんて、今のご時世、あるのだろうか。
ところが、映画『能登デモクラシー』には本当に民主主義を守るメディアが出てきた。しかもそれは、80代の老人が1人で手書きで作り、自分で配って回る新聞なのだ。過疎化が進む石川県・能登半島の穴水町の民主主義を、彼のメディア「紡ぐ」は間違いなく支えている。
“なあなあの町”に起きた奇跡
『能登デモクラシー』というドキュメンタリー映画のタイトルを聞いて、地震に襲われた能登の町で民主主義が崩壊するさまを描くのだろうと思い込んでいた。映画を見たら、逆に地震から立ち直り、「紡ぐ」を軸に民主主義を取り戻す穴水町が描かれていた。地震の後の絶望ではなく、希望が見える映画だった。
『はりぼて』で富山市議会の情けなさをあぶり出し、『裸のムラ』では石川県政について2人の市井の人を絡めて照射した、石川テレビの五百旗頭(いおきべ)幸男監督。彼が次の作品の舞台に選んだのが、能登半島の穴水町だった。
この町の人々は、「ボラ待ちやぐら」で魚の群れを待つ独特の漁に象徴されるように、自分からは動かない。町の議員たちは平均年齢70歳超えのおじいちゃんばかり。町長は50代と若いが、行政と議会による二元代表制のはずが、互いに馴れ合い、ろくに議論もせずに議案がどんどん通ってしまう。
計画中の「多世代交流センター」は、町長が理事長を務める社会福祉法人「牧羊福祉会」の施設で、国と町が建設費を半分ずつ負担する。利益誘導にしか見えず、普通なら議会が紛糾しそうなものだが、なあなあで済ませる穴水町議会はあっさりスルーしてしまう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら